
和盆日和
こんにちは。和盆日和、運営者の「S」です。
お気に入りの剪定ばさみが切れなくなった時、すごくストレスを感じますよね。枝がうまく切れずに潰れてしまったり、何度も握り直して手が疲れたり。私も盆栽の手入れでよく経験します。
切れ味の低下を感じると、原因は刃こぼれかな?と焦って「研ぎ方」を調べがちですが、ちょっと待ってください。もしかしたら、もっと単純な「ヤニ取り」や「サビ取り」で解決するかもしれません。
自己流の手入れで試しても「直らない」と諦めて「買い替え」を考える前に、一度ハサミの状態をしっかり診断してみませんか?もしかしたら「分解」や調整だけで、驚くほど切れ味が戻る可能性もあります。
この記事では、剪定ばさみが切れなくなった時の原因の見極め方から、段階的なメンテナンス方法、そして「研ぎ」のコツまで、私が実践している方法を分かりやすくまとめます。
記事のポイント
- 切れ味が落ちる4つの主な原因
- 研ぐ前に試すべき「清掃」と「調整」
- 失敗しないハサミの研ぎ方とNGな手入れ
- 修理を諦める「買い替え」の判断基準
剪定ばさみ切れなくなった4大原因
剪定ばさみの切れ味が悪くなったと感じたら、いきなり研ぎ始めるのはおすすめしません。まずは「なぜ切れないのか」という原因を正しく診断することが、復活への一番の近道ですね。原因が分かれば、解決策の8割は見つかったも同然です。

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原因1:ベタベタする「ヤニ取り」の方法
ハサミを開閉するときに、なんだか重い、ベタベタとした抵抗を感じる。これは、植物の樹液、いわゆる「ヤニ」が固着しているサインです。特に松やオリーブ、柑橘類、コニファーなどを切った後は付きやすいですね。
このヤニが刃に膜を作ってしまい、刃同士がスムーズに擦れ合うのを邪魔して、切れ味を鈍らせます。これは「刃が鈍った」というより、「摩擦抵抗が極端に増えた」状態なんです。さらに、ヤニは水分を保持しやすい性質があるため、放置すると次に紹介する「サビ」の温床になってしまいます。
ヤニは水で洗っただけではなかなか落ちませんが、アルコールやアルカリ性の溶剤で化学的に分解するのが最も効率的です。
ヤニの落とし方(手軽な順)
- 専用クリーナー(ヤニ取りスプレー): やはり専用品が一番安全で効果的かなと思います。アルカリ性の泡やスプレーでヤニを浮かせ、化学的に分解してくれます。フッ素コーティングが施されたデリケートな刃にも安心して使用できる製品が多いのが良いですね。
- 無水エタノール: 薬局でも比較的手に入りやすいです。ウエス(布)に含ませて拭き取ると、強力にヤニを溶解します。揮発性が高いので、拭き取り後に水分が残りにくいのもメリットです。
- メラミンスポンジ(激落ちくんなど): 水を含ませてこするだけで、物理的にヤニを「削り取る」ことができます。非常に手軽ですが、これは「微細な研磨」です。そのため、刃の表面に施されたフッ素コーティングなども一緒に剥がしてしまう可能性があるため、コーティング刃への使用は非推奨です。
- 除光液(アセトン): 非常に強力な有機溶剤ですが、これは最終手段ですね。樹脂(プラスチック)製のグリップ(持ち手)部分に付着すると、樹脂を溶かしてしまう危険があるため、使用には細心の注意が必要です。
まずはこの「ヤニ」を落とすだけで、驚くほど開閉がスムーズになり、切れ味が復活することも多いですよ。
原因2:ザラザラする「サビ取り」の方法
刃が茶色くなったり、黒ずんで表面がザラザラしている。これは「サビ」が原因です。特に私が愛用しているような炭素鋼のハサミは、切れ味が鋭い反面、使った後に水分やヤニを拭き取らずに保管すると、あっという間にサビてしまいます。
サビは単なる汚れではなく、金属の表面を「侵食」する現象です。このミクロのデコボコが刃先をボロボロにし、刃を鈍らせ、切れ味を根本的に悪化させるんですね。
サビの落とし方(サビの程度別)
- 軽度のサビ(表面の点錆): 「サビ取り消しゴム(ラバークリーナー)」が最も手軽です。研磨剤を含んだ消しゴムで、サビの部分をこするだけです。
- 中程度のサビ(広範囲の茶サビ): 家庭にある「お酢」や「クエン酸」に浸け置きする方法もあります。酸の力で化学的にサビ(酸化鉄)を分解するんですね。サビた部分が浸かるように数時間浸け置きします。
- 重度のサビ(赤錆・黒錆): 600番〜1000番程度の耐水サンドペーパーで、水をつけながら物理的にこすり落とします。ただし、刃先(刃がついている角度の部分)をこすると刃が丸まってしまうため、あくまで刃の「平面」部分のサビ取りに留めてください。
ここで、お酢やクエン酸を使う場合に、非常に重要な注意点があります。
お酢やクエン酸を使う時の「専門的」な注意点
多くのDIYサイトで紹介されている方法ですが、これらは「酸」です。酸はサビを溶かしますが、同時に「鉄(ハサミ本体)」もわずかに溶かします。
最大のリスクは、作業後に刃の隙間やネジ部分に酸が残り、そこから「新たなサビ」を猛烈な勢いで誘発することがあるんです。メンテナンスしたつもりが、かえってハサミの寿命を縮めることになりかねません。
【専門家の手順】: 酢やクエン酸(酸性)を使用した場合、必ず作業後に「重曹水(アルカリ性)」に浸けて化学的に「中和」してください。その後、水で全体をよく洗い流し、水分を完全に拭き取り、ドライヤーなどで徹底的に乾燥させます。この「中和」のステップを絶対に怠らないでください。
原因3:刃こぼれや摩耗の見分け方

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枝を挟んでもスパッと切れず、潰れてしまう。切り口がギザギザになり、植物の繊維が引きちぎられたようになる。これは、刃が物理的に欠けている「刃こぼれ」か、長期間の使用による「摩耗」が原因かもしれません。
一番分かりやすい見分け方は、刃先を光にかざしてみることです。刃先を明るい方に向けて、刃の先端を見てみてください。もし刃先に「キラリ」と線状に光る部分が見えたら、そこが刃こぼれしている箇所です。正常な刃は鋭く尖っているので、光を線状に反射しないんですね。
刃こぼれの主な原因は、うっかりミスが多いです。
- 庭の土壌改善に使った肥料の袋の針金
- 植え替えの際に紛れ込んだ砂利や石
- 太すぎる乾燥した硬い枝(枯れ枝)
これらを無理に切ろうとすると、柔らかい生木を切るようには設計されていないため、刃は物理的に欠けてしまいます。この場合は、第2部で解説する「研磨(研ぎ)」による刃先の修正が必要になります。
原因4:中央ネジの緩みと「分解」調整
ヤニもサビも刃こぼれもないのに切れない。特に、枝が刃と刃の間に「逃げて」しまい、挟まるだけで切れない。これは、切れ味低下の原因として非常に多い「中央ネジの緩み」が考えられます。
剪定ばさみは、包丁と違い、「切り刃(動く刃)」と「受け刃(動かない刃)」がすれ違う「剪断(せんだん)」作用で枝を切ります。この「すれ違い」の精度をコントロールしているのが中央のネジ(ナット)です。
ここが緩むと両刃の間にミクロな隙間ができ、枝を潰してしまう「アンビル式」のような状態になり、切れなくなります。逆に、ネジが締まりすぎていると、開閉が非常に硬くなり、すぐに手が疲れてしまいます。
最適な「かみ合わせ」調整法(自重テスト)
「どれくらい締めれば良いか」は、このテストで判断するのが一番分かりやすいです。
- ハサミを水平に持ち、片方のハンドル(受け刃側が多い)を固定します。
- もう片方のハンドル(切り刃側)を、ゆっくりと90度ほど開きます。
- 持っているハンドルを固定したまま、開いた方のハンドルから手を離します。
- この時、刃が自重で「スルスルと半分ほど閉じる」状態が、多くの専門家が推奨するベストな状態です。
- 緩すぎ: 手を離した瞬間に、刃が「カシャン」と最後まで閉じてしまう。
- きつすぎ: 手を離しても、刃がまったく動かない。
プライヤーやレンチでナット側を固定し、ボルト側(ネジの頭)をドライバーやコインなどで回して、この「半分閉じる」状態に調整してみてください。
可能であれば、一度「分解」してネジ周りや刃の裏側にこびりついたヤニを掃除すると、さらに調整がスムーズになりますよ。(ただし、部品を失くさないよう細心の注意が必要です!)
「直らない」と諦める前のチェック項目
これら4つの原因は、それぞれ独立しているわけではなく、「悪循環の連鎖」として現れることがほとんどです。
例えば、私が経験した最悪の連鎖はこうです。
(1) ヤニを放置する → (2) ヤニが水分を呼んでサビる → (3) サビで切れ味が悪くなり、無理な力で切ろうとする → (4) 中央ネジに過度な負担がかかり「緩む」 → (5) さらに切れないので、もっと力を込めて握る → (6) 無理な力が一点に集中し「刃こぼれ」が発生する
つまり、「ヤニを放置する」という最初の手入れ不足が、サビ、ネジの緩み、そして最終的な刃こぼれという、より深刻な問題の引き金となっている可能性が高いのです。
ですから、「切れなくなった」と感じたら、まずは「研ぐ」こと(刃こぼれ対策)を考える前に、自分のハサミがどの状態にあるか、以下の表で診断してみてください。
| 症状 | 考えられる原因 | 参照すべきセクション |
|---|---|---|
| 枝が潰れる・挟まる | 1. ネジの緩み 2. 重度な刃こぼれ | 原因4(ネジ調整)、H2-1(研ぎ方) |
| 開閉が重い・ベタつく | 1. ヤニの付着 2. ネジの締まりすぎ 3. 重度なサビ | 原因1(ヤニ取り)、原因4(ネジ調整)、原因2(サビ取り) |
| 切り口がギザギザになる | 1. 刃こぼれ 2. サビによる刃先の侵食 | H2-1(研ぎ方)、原因2(サビ取り) |
| 全体的に切れない | 1. 刃の摩耗 2. 複合的な原因 | 原因1〜4、H2-1(研ぎ方) |
「もう直らないかも」と思っていたハサミが、まずは「ヤニ取り」と「ネジ調整」だけで復活する可能性は非常に高いですよ。
剪定ばさみ切れなくなった時の復活術
さて、第1部で紹介した「清掃」と「調整」を試しても、まだ切れ味が戻らない。光にかざすと、やはり「刃こぼれ」が見つかった。この場合は、いよいよ最終手段である「研磨(研ぎ)」に移ります。ここからは、ハサミの寿命を延ばすための予防メンテナンス(手入れ)についても、詳しく解説しますね。

和盆日和
失敗しない「研ぎ方」の全手順
ハサミの研ぎは、包丁とは少し違います。たった一つの間違いが、ハサミを「二度と切れない」状態にしてしまうリスクもあるので、慎重に行きましょう。
研ぐ前の準備(分解と清掃)
可能であれば、中央のネジを外し、切り刃と受け刃に分解するのがベストです。研ぎやすさが格段に向上しますし、刃の裏側など、普段は手の届かない部分にこびりついたヤニも完全に除去できます。
ただし、バネやネジなどの小さな部品を紛失しないよう、細心の注意が必要です。分解しない場合でも、第1部で解説した「ヤニ取り」「サビ取り」は必須です。刃が汚れたまま砥石(といし)に当てると、砥石の表面がすぐに「目詰まり」を起こし、研磨能力が著しく低下しますからね。
道具の選び方
研磨用の道具にはいくつか種類があり、スキルやハサミの状態で選ぶのが良いかなと思います。
| 道具の種類 | 特徴(メリット) | デメリット | 推奨ユーザー |
|---|---|---|---|
| 砥石(といし) | ・最も本格的かつ繊細に研げる ・刃こぼれの修正から仕上げまで可能 ・切れ味の持続性が高い | ・角度の維持に高度な技術が必要 ・使用前に水に浸す準備が必要 ・荒砥/中砥/仕上砥と複数必要 | 上級者・本格派 |
| ダイヤモンド シャープナー | ・水不要ですぐ使える ・研削力が非常に高い ・ステンレスや超硬鋼材にも有効 | ・研削力が高すぎて研ぎすぎに注意 ・刃が荒れやすい(バリが出やすい) | 中級者・手軽さ重視 |
| 専用シャープナー (ハンディタイプ) | ・研ぐ角度がガイドで固定されている ・初心者でも失敗が少ない ・刃先を数回なでるだけ | ・大きな刃こぼれは直せない ・対応する刃の形が限定的 ・あくまで応急処置用 | 初心者・応急処置 |
私は、普段のちょっとした手入れならハンディタイプのシャープナーで、本格的に刃こぼれを直すなら砥石(中砥石)を使っています。まずは手軽なものから試すのが良いかもしれませんね。
【最重要】研ぐのは「切り刃の表面」だけ
ここが本記事で一番大切なポイントです。剪定ばさみ(バイパス式)は、鋭い「切り刃」と、それを支える「受け刃」(まな板の役割)ですれ違って切ります。
研ぐのは、「切り刃」の「外側の斜面(刃先)」だけです。
もともと付いている刃の角度(刃先から背までの斜面)を崩さないよう、シャープナーや砥石を当てます。この斜面全体が砥石にピッタリと接する角度を探り、その角度を完璧に維持したまま、刃の根元から刃先に向かって、刃のカーブに沿って一定方向に滑らせます。
【警告】絶対に研いではいけない場所
1. 切り刃の裏側(平面) 2. 受け刃のすべて(特に内側の平面)
ここを研いでしまうと、ハサミは二度と切れない「直らない」状態になります。
なぜなら、バイパス式バサミは「切り刃の裏側(平面)」と「受け刃の内側(平面)」が、ミクロン単位で完璧に「面」で接触(「裏押し」や「ひずみ」と呼ばれる高度な調整がされています)しているからです。
ユーザーがこの「平面」を研いでしまうと、そこが「丸く」なったり「傾斜」がついてしまい、刃と刃の間に物理的な「隙間」が恒久的に生まれます。この「隙間」が、第1部で解説した「ネジの緩み」と同じ状態(枝が逃げる)を作り出してしまいます。一度この隙間ができると、いくらネジを締めても刃同士が密着せず、修理は非常に困難になります。
仕上げ:「かえり(バリ)」の除去
刃を研ぐと、研いだ面の反対側(切り刃の裏側=平面側)に、金属の「めくれ」ができます。これが「かえり(バリ)」です。この「かえり」が残っていると、引っかかりが生じて本当の切れ味は出ません。
この「かえり」を取る時だけ、例外的に「切り刃の裏側(平面)」を触ります。
切り刃の裏側(平面)全体を、砥石(できれば仕上げ砥)に「ベタッ」と当てます。角度を一切つけずに(0度)、平面を維持したまま、軽く1〜2回、手前に引くように滑らせます。これだけで、裏側にめくれていた「かえり」だけが綺麗に取り除かれます。
(補足:受け刃にサビやヤニがこびりついている場合は、その汚れを落とす程度に平滑な面で磨くことは問題ありませんが、「研ぐ」意識で刃先を触ってはいけません)
研磨作業は、ケガに十分注意し、自信がない場合は無理をせず、メーカーや専門の金物店が行っている「研ぎ直しサービス」を利用するのも賢明な判断だと思います。
やってはいけないNGな「手入れ」とは

和盆日和
切れ味を復活させたら、その状態を長持ちさせたいですよね。一番やってはいけないNGな手入れは、「何もしないこと」です。
使った後に、ヤニや水分、土が付いたまま放置するのが、ハサミの寿命を縮める最大の原因です。第1部で解説した「悪循環の連鎖」の始まりですね。
作業が終わったら、たった5分で良いので、以下の「使用後5分のルーティン」を習慣づけることを強くおすすめします。
切れ味を長持ちさせる「使用後5分」のルーティン
- 拭き取り: 作業が終わったら、その日のうちに、ウエス(古いTシャツなどでもOK)で土や水分、軽いヤニを拭き取ります。
- 簡易清掃: ヤニがひどい場合は、エタノールを含ませた布で拭き取るか、専用クリーナーで落とします。
- 油の塗布: 最後に「正しい油」を薄く塗布します。(次のセクションで詳しく解説します)
この習慣をつけるだけで、サビの発生を劇的に防げます。こうした日々の手入れの積み重ねが、道具への愛着にもつながりますよね。(盆栽の基本的な手入れにも通じるものがありますね。興味のある方は盆栽の基本的な手入れ方法もご覧ください。)
CRC5-56が非推奨な理由
ここで、油の塗布に関して、私が強く注意したい点があります。それは、家庭によくある「CRC 5-56(クレ556)」を手入れに使ってしまうことです。
「サビ取り」「潤滑」のために、これを剪定ばさみにスプレーしてしまう方が非常に多いのですが、これは「予防メンテナンス」としては間違いだと私は考えています。
「CRC 5-56」は「手入れ(予防)」には使わないでください
多くの方がCRC 5-56を万能な「潤滑・防錆剤」だと思っていますが、専門的に見ると、あれは「浸透・洗浄・水置換剤」としての性格が強いんです。(出典:呉工業株式会社 KURE 5-56 製品情報)
問題点は、その強力な「洗浄・浸透作用」が、ハサミの可動部(ネジ内部)に元々塗布されていた、長持ちさせるための「グリス」や「適切な油」を洗い流してしまうことです。
塗布直後は溶剤の力で滑らかに動きますが、その溶剤が揮発すると、薄い油膜もすぐに切れてしまい、結果として「無防備」な金属面が露出し、以前よりも早くサビるという本末転倒な状態を引き起こす可能性があります。
CRC 5-56は、サビで固着して「動かなくなった」ネジを緩めるために「一時的」に使うもの、と割り切った方が良いですね。もし固着を解くために使用した場合は、その後に必ずパーツクリーナーなどで脱脂し、改めて「椿油」や「ミシン油」を注油し直してください。
剪定ばさみの手入れに推奨される油
- 椿油(刃物用油): 伝統的に日本の刃物手入れに使われてきました。酸化しにくく(乾きにくい)、刃物の鋼材との相性が非常に良いとされています。
- ミシン油: 椿油より安価で入手しやすい鉱物油。防錆・潤滑性能も十分で、家庭でのメンテナンスに最適です。
清掃後、これらの油を薄く刃全体と可動部に塗布し、湿気を避けて工具箱や室内で保管するのが理想です。
最終判断:「買い替え」の3つの基準

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清掃、調整、そして研磨のすべてを試しても切れ味が改善しない、あるいは「直らない」と判断した場合、残念ながらそのハサミは寿命を迎えている可能性があります。
私が「買い替え」を判断する基準は、以下の3つのサインです。
- 大きな刃こぼれ(1mm以上): 刃先の欠けが大きすぎると、研磨でその欠けを消そうとすると、刃の線が完全になくなってしまいます。切り刃と受け刃がすれ違わなくなり、ハサミとして機能しなくなります。
- 刃の歪み・ねじれ: ハサミをコンクリートに落下させる、無理な力をかけてこじるなどして、刃自体が歪んだ場合。かみ合わせが根本的に狂っており、調整不可能です。
- 裏側を研いでしまった: 第4部で警告した「切り刃の裏側」を自己流で研いでしまい、平面が崩れた場合。これは専門の研ぎ師でなければ修復が難しく、多くの場合、修理費用が新品の購入価格を上回ります。
もし、買い替えることになった場合、次に選ぶハサミで失敗しないために、一つだけ考えてほしいことがあります。それは「なぜ初代のハサミは切れなくなったのか?」の分析です。
もし、切れなくなった原因が「太い枯れ枝を無理に切ろうとして刃こぼれさせた」のであれば、それは「用途と道具のミスマッチ」が原因です。
用途別:バイパス式 vs アンビル式
次のハサミ選びでは、そのミスマッチを防ぐ知識が必要です。剪定ばさみには大きく分けて2種類あります。
| 方式 | 構造 | メリット(適した用途) | デメリット(不適な用途) |
|---|---|---|---|
| バイパス式 (ハサミ型) | 「切り刃」と「受け刃」がすれ違う (ハサミと同じ「剪断」原理) | ・切り口が綺麗(細胞を潰さない) ・生木(なまき)の剪定に最適 ・日本の主流 | ・太すぎる枝、硬い枯れ枝は苦手 ・無理をすると刃こぼれ・歪む |
| アンビル式 (まな板型) | 「切り刃」が「まな板(受け台)」に叩きつけられる(「押切り」原理) | ・力が伝わりやすい(テコの原理) ・太い枝、枯れ枝、硬い枝に最適 | ・切り口が潰れやすい ・生木の剪定には不向き |
日本の園芸(庭木やバラ、盆栽など)の90%は、切り口が綺麗で植物に優しい「バイパス式」が最適です。しかし、初代のハサミを「枯れ枝」や「太枝」を切って壊してしまったのであれば、2代目もバイパス式を選びつつ、それとは別に、枯れ枝・太枝処理専用の「アンビル式」または「剪定ノコギリ」を併用してください。
「一つの道具で全ての作業をこなそうとしない」ことが、道具を長持ちさせる最大の秘訣ですね。(ハサミも含めた盆栽道具の選び方についても、別の記事でまとめていますので、よろしければ参考にしてください。)
剪定ばさみ切れなくなった時の総まとめ
今回は、「剪定ばさみが切れなくなった」という問題について、原因の診断から対処法までを掘り下げてみました。
切れなくなった原因の多くは、「刃の摩耗」という深刻なものではなく、日々の手入れで防げるか、簡単に修復できる「ヤニ」「サビ」「ネジの緩み」であることがほとんどです。
切れ味の低下を感じたら、パニックにならず、以下のステップを踏んでください。
剪定ばさみ復活へのロードマップ
- 【診断】まず「ヤニ」「サビ」「ネジ緩み」「刃こぼれ」のどれが原因か見極める。(H2-1参照)
- 【清掃・調整】いきなり研がず、「ヤニ取り」「サビ取り」「ネジ調整」を先に行う。(H2-1参照)
- 【研磨】それでもダメなら、最終手段として「研磨」に挑戦する。(ただし、「研ぐ場所」のルールは厳守! H2-2参照)
- 【予防】復活したら、日々の作業後に「拭き取り」と「正しい油の塗布(CRC 5-56は除く)」を習慣づける。(H2-2参照)
これが、剪定ばさみの寿命を最大限に延ばすための鍵となります。
正しい知識を持って手入れをすれば、剪定ばさみは消耗品ではなく、あなたの園芸ライフを何十年にもわたって支えてくれる「一生モノの相棒」になってくれると思いますよ。
以上、和盆日和の「S」でした。