剪定ばさみ

剪定鋏ラチェット式デメリットを検証!後悔しない選び方と注意点

太い枝を軽く切るラチェット式剪定鋏を持つ手と、製品の魅力的なイメージ

和盆日和

こんにちは。和盆日和、運営者の「S」です。

日々、庭木や盆栽と向き合っていると、どうしても避けて通れないのが「太い枝の剪定」という重労働です。特に、冬の落葉樹の剪定や、長年放置して硬くなった古枝を整理する際、手首や掌にかかる負担は想像以上ですよね。そんな中、「握力が弱くても、太い枝がバターのように切れる」という魅力的なキャッチコピーで販売されている「ラチェット式剪定鋏」に、救いを求めたくなる気持ちは痛いほどよく分かります。私もかつて、腱鞘炎になりかけた手首をさすりながら、ホームセンターの園芸コーナーでラチェット鋏を手に取った一人でした。

しかし、購入ボタンを押す前に、少しだけ立ち止まってください。インターネットで検索窓に「剪定鋏 ラチェット式」と打ち込むと、サジェスト(予測変換)に「デメリット」「使いにくい」「壊れやすい」といったネガティブな単語が並ぶことに気づきませんでしたか? 実は、ラチェット式剪定鋏は「力を増幅させる」という物理的なメリットと引き換えに、作業効率や植物の健康、そして使い手を選ぶという点において、無視できない構造的な欠陥とも言えるデメリットを抱えているのです。

この記事では、園芸用具のエンジニアリング的な視点と、植物生理学に基づいた樹木への影響、そして私自身が実際に現場で使用して感じた率直な感想を交えながら、メーカーの宣伝文句には書かれていない「ラチェット式の真実」を包み隠さず解説します。特に、左利きの方や、バラや盆栽などデリケートな植物を扱っている方にとっては、知らずに使うと取り返しのつかない失敗に繋がる可能性もあります。

ラチェット式があなたの園芸ライフにとって「魔法の杖」になるのか、それとも「物置の肥やし」になってしまうのか。その判断材料を余すところなく提供しますので、ぜひ最後までお付き合いください。

記事のポイント

  • ラチェット機構が物理法則として引き起こす「時間」と「手間」の不可避なトレードオフ
  • アンビル式構造が植物の形成層を圧挫し、腐朽菌の侵入を招く病理学的リスク
  • 左利きユーザーがラチェット式を使用した際に発生する「刃離れ」と事故の危険性
  • ラチェット式を選んではいけない具体的なケースと、それを解決する現代的な代替手段

剪定鋏ラチェット式のデメリットと構造的な欠陥の真実

剪定鋏のX線透過イメージと疑問符。物理法則、植物生理学、人間工学の視点を示す図

和盆日和

「テコの原理とギアの力で、誰でも簡単に太枝が切れる」。この謳い文句は決して嘘ではありません。しかし、物理学には「仕事の原理」という絶対的な法則があります。ある作業に必要なエネルギー(仕事量)は不変であり、力を減らせば、その分だけ「動かす距離(回数)」を増やさなければならないのです。ここでは、この物理法則が実際の剪定作業においてどのような「使いにくさ」として現れるのか、そしてその構造が植物や人体にどのような負担を強いるのか、詳細に検証していきます。

  • 時間がかかり使いにくい作業効率の悪さとストレス
  • アンビル式の圧力で植物組織が枯れる病気のリスク
  • 柔らかい枝では皮が残ってきれいに切れない問題
  • 重量が重いうえに大きく手を開く動作で疲れる原因
  • 左利きには絶対に使えない物理的な構造上の理由

時間がかかり使いにくい作業効率の悪さとストレス

通常の鋏(約0.5秒)とラチェット式(約3〜5秒)の切断にかかる時間を比較したイラスト

和盆日和

私がラチェット式剪定鋏を現場で導入して最初に直面し、そして最も失望した点が、この「圧倒的な作業スピードの遅さ」でした。趣味で週末に数本の枝を切る程度なら、この遅さは「儀式」として楽しめるかもしれません。しかし、限られた時間内で効率よく作業を進めたい場合、ラチェット式の構造は致命的なボトルネックとなります。

通常の剪定鋏(バイパス式や単純なアンビル式)であれば、枝に刃を当てて握り込む、ただそれだけの「ワンアクション」で切断が完了します。所要時間はわずか0.5秒ほど。熟練すれば、呼吸をするようにリズミカルに、次々と不要な枝を落としていく「フロー状態」に入ることができます。思考と動作が直結し、剪定作業そのものが心地よいリズムを刻むのです。

対してラチェット式は、その構造上、どうしても「マルチステップ」の動作を強要されます。 まず枝を挟み、一度握り込みます(刃が少し食い込む)。次にハンドルを緩めてバネの力でハンドルを戻し(ここで「カチャッ」とギアが一段送られる)、再び握り込みます(さらに食い込む)。太い枝であれば、これを3回から4回繰り返さなければ切断に至りません。

この「握る、緩める、握る、緩める、切れる」という一連のプロセスには、どんなに慣れても3秒から5秒の時間を要します。通常の鋏の5倍以上の時間がかかる計算です。たった数秒の差と思われるかもしれませんが、例えば庭木の剪定で500本の枝を切ると想像してみてください。単純計算で数十分ものタイムロスが発生するだけでなく、枝一本ごとに「カチャカチャ」と動作をリセットされるため、作業のリズムがズタズタに分断されます。

この「ストップ・アンド・ゴー」の繰り返しは、肉体的な疲労以上に、精神的なストレス(イライラ)を蓄積させます。「さっさと切りたいのに切れない」という焦りは、判断力を鈍らせ、剪定位置のミスや怪我にも繋がりかねません。プロの庭師がラチェット式をほとんど使わない最大の理由がここにあります。

アンビル式の圧力で植物組織が枯れる病気のリスク

剪定鋏のバイパス式(剪断)とアンビル式(圧挫)の違いと、壊死した形成層の断面図比較

和盆日和

次に、植物の健康に関わる重大な問題、すなわち「切り口の品質」についてお話しします。市場に出回っているラチェット式剪定鋏の9割以上は、「アンビル(Anvil)式」という構造を採用しています。「アンビル」とは「金床」を意味し、その名の通り、平らな受け台(アンビル)の上に、上から包丁のような刃を押し当てて切断する仕組みです。これは、少ない力で強い押し切り力を生むラチェット機構と相性が良いため採用されているのですが、植物生理学の観点からは大きな懸念があります。

一般的な「バイパス式」の剪定鋏は、2枚の刃がすれ違うことで、ハサミのように鋭く繊維を「剪断(せんだん)」します。これに対し、アンビル式ラチェットは、刃が枝に食い込み、最終的にアンビルとの間で枝を「圧挫(あつざ=押し潰す)」して切断を完了させます。

この「押し潰す」というプロセスが、植物にとって非常に有害なのです。 樹木の樹皮のすぐ内側には、「形成層(けいせいそう)」と呼ばれる細胞分裂を行う重要な組織があります。形成層は、枝が切断された際に傷口を覆う「カルス(癒合組織)」を作り出し、傷を治す役割を担っています。しかし、アンビル式の強い圧力で押し潰された形成層は、細胞が破壊され壊死してしまいます。

比較項目 バイパス式(すり合わせ) アンビル・ラチェット式(押し切り)
切断原理 鋭利な刃による繊維の切断 圧力による組織の圧迫・粉砕
形成層への影響 ダメージ小(修復が早い) ダメージ大(壊死・治癒遅延)
病気のリスク 低い 高い(腐朽菌の侵入ゲートになる)

壊死した組織はカルスを作ることができず、傷口が塞がるまでの時間が大幅に遅れます。それどころか、潰れた組織は腐敗しやすく、そこから腐朽菌やウイルスが侵入し、枝枯れ(ダイバック)や癌腫病(がんしゅびょう)といった深刻な病気を引き起こす原因となります。特に、バラ、サクラ、モモ、カエデといった病気に弱い樹種や、菌が入りやすい樹木に対してアンビル式ラチェットを使用することは、植物の寿命を縮める行為にも等しいと言えるでしょう。

柔らかい枝では皮が残ってきれいに切れない問題

ラチェット式剪定鋏が「太い枝専用」と言われる所以は、パワーの問題だけではありません。「切れ味の質」において、柔らかい対象物が極端に苦手であるという特性も関係しています。

アンビル式の構造は、包丁でまな板の上の肉を切る動作に似ています。肉を切るとき、もし包丁の切れ味が悪かったり、まな板が少し凹んでいたりしたらどうなるでしょうか? 最後の一枚、薄い皮(筋)が切れずに残ってしまいますよね。これと全く同じ現象が、ラチェット式剪定鋏でも頻発します。

特に、水分を多く含んだ柔らかい新梢(シュート)、アジサイのような草花、あるいは繊維質が強靭なオリーブやイチジクの若木などを切る際に、このトラブルは顕著に現れます。刃が枝を押し切ろうとしても、柔らかい繊維が刃の圧力から逃げてしまい、アンビルと刃の接地面で「皮一枚」が繋がったまま残ってしまうのです。

この「皮残り」は、単に見栄えが悪いだけではありません。作業中にこの繋がった皮に気づかず、鋏を引いたり枝を払ったりすると、その皮が樹皮を巻き込んで長く引き裂かれてしまいます(バーク・ティアリング)。樹皮が剥がれると、その下の形成層や木部が広範囲に露出することになり、植物にとっては腕の皮膚を広く剥がされたような大怪我となります。

「大は小を兼ねる」と思ってラチェット式一本ですべての剪定をこなそうとすると、繊細なケアが必要な若木や花木をボロボロにしてしまう恐れがあります。ラチェット式はあくまで「硬化した枯れ枝や硬い枝」を粉砕するための道具であり、生きた柔らかい組織をスパッと切るメスのような役割は期待できないのです。

重量が重いうえに大きく手を開く動作で疲れる原因

ラチェット式の重さ(約300g)とバイパス式の重さ(約200g)を天秤にかけた図と、手首の炎症を示すイラスト

和盆日和

「握力を補助する」という目的で購入したはずが、逆に手や腕を痛める原因になってしまう。これはラチェット式剪定鋏が抱える最大のパラドックス(逆説)です。その原因は、「本体の重量」と「人間工学的なハンドルの開き幅」の2点に集約されます。

まず、重量の問題です。バイパス式の剪定鋏は、構造がシンプルであるため、プロ用の高品質なものでも200g前後、軽量モデルなら150g程度で収まります。一方、ラチェット式は、ラチェットギア、可動ピン、スライドスロット、複数のバネなど、多数の金属部品を内蔵する必要があります。そのため、重量は軽くても250g、頑丈なモデルでは300g〜350gにも達します。たった100gの差ですが、腕を伸ばして何度も開閉する剪定作業において、この重量増は肩や肘へのモーメント負荷として重くのしかかります。

そして、より深刻なのが「ハンドルの開き幅」の問題です。 ラチェット機構を作動させる(ギアを次の段に送る)ためには、一度握り込んだハンドルを、バネの力で大きく開く必要があります。この「全開状態」のハンドル幅は、通常の鋏よりもかなり広くなる傾向があります。

手が小さい女性や高齢者の場合、この全開になったハンドルを握ろうとすると、指の第一関節しか掛からないような、非常に不安定な状態から力を入れ始めなければなりません。人間工学的に、手は「ある程度握り込んだ状態」で最も力を発揮できるようにできており、完全に開いた状態では力が入らないのです。 さらに、ハンドルを大きく開く動作を繰り返すことは、前腕の伸筋群(手首を反らす筋肉)を酷使することに繋がります。これは「テニス肘(上腕骨外側上顆炎)」の原因となる動きであり、握る力(屈筋)を節約できたとしても、逆に開く力(伸筋)で炎症を起こしてしまうリスクがあるのです。

左利きには絶対に使えない物理的な構造上の理由

剪定作業を行う手元のイラスト。左利き使用時の危険性と正しい道具選びの重要性

和盆日和

もしあなたが左利きで、これからラチェット式剪定鋏を買おうとしているのであれば、ここで明確にお伝えしておきます。右利き用のラチェット鋏を、左手で使うことは絶対にやめてください」。これは使いにくいから推奨しない、というレベルの話ではなく、物理的に機能せず、かつ危険だからです。

剪定鋏は、文房具のハサミと同様に、左右非対称に作られています。右利きの鋏を右手で握ると、親指が上刃を外側へ押し、残りの指が下刃(ハンドル)を内側へ引く力が働きます。この「ひねり」の力によって、二枚の刃(または刃とアンビル)の接触面が密着し、対象物を鋭く切断することができるのです。

しかし、これを左手で持つと、力のベクトルが完全に逆転します。 親指は上刃を内側へ、指は下刃を外側へ力を加えることになり、結果として「刃とアンビルを互いに引き剥がす」方向に力が働いてしまうのです。これを「刃離れ」と呼びます。

刃とアンビルの間に隙間ができると、枝は切断されず、その隙間にグニャリと噛み込んでしまいます。ラチェット式の強力なテコの原理が働いている状態で枝が噛み込むと、繊維がクサビのように食い込み、鋏が完全にロックされて開くことも閉じることもできなくなります(ジャミング)。こうなると、別のノコギリで枝を切って救出するか、最悪の場合は鋏を分解するしかありません。

通常のバイパス鋏であれば左利き用モデルも存在しますが、ラチェット式はその複雑な構造ゆえに金型コストが高く、左利き専用モデルを製造しているメーカーは極めて稀です。市場にある「左右兼用」と謳う商品も、グリップの形状が対称なだけで、刃の合わせ目自体は右利き仕様のものが多いため、注意が必要です。

剪定鋏ラチェット式のデメリットを補う対策と代替手段

ここまで、ラチェット式の構造的な弱点を辛辣に指摘してきましたが、もちろん全てのユーザーにとって無価値というわけではありません。「ドライウッド(枯れ木)の処理」や「太枝の粗切り」といった特定の用途においては、そのパワーは頼もしい存在となります。 しかし、そのメリットを享受しつつ、長く快適に使い続けるためには、故障リスクやメンテナンスの難しさを理解し、場合によってはより優れた「代替手段」を選択する柔軟性も必要です。

  • 複雑なギア構造は壊れやすい故障や破損のリスク
  • 自分での分解や刃の研ぎ直しなどメンテナンス困難
  • 実際に使用した人の悪い評判や口コミに見る不満点
  • 予算が許すならラチェット式より電動剪定鋏が最適
  • おすすめしない人の特徴と失敗しない選び方の基準
  • 剪定鋏ラチェット式のデメリット総括と最終的な結論

複雑なギア構造は壊れやすい故障や破損のリスク

エンジニアリングの世界には「KISSの原則(Keep It Simple, Stupid)」という言葉があります。「構造はシンプルであるほど良い」という意味ですが、ラチェット式剪定鋏はこの原則の対極に位置する道具です。 バイパス式剪定鋏が、基本的には「2枚の刃」と「それをつなぐボルト」だけで構成されているのに対し、ラチェット式はその内部に時計仕掛けのような複雑さを抱えています。

具体的には、以下のような故障モードが頻発します。

  • 支点ピンの破断・脱落: ラチェット動作の核となる支点のピンには、テコの原理で増幅された数倍の剪断力がかかります。コストダウンされた安価なモデルでは、このピンの強度が不足しており、硬い枝を切った瞬間に「バキン」と折れたり、カシメが緩んで分解してしまったりする事故が後を絶ちません。
  • リターンスプリングの破損: ラチェット機構(ギア)を初期位置に戻すための小さなスプリングが内部に組み込まれていますが、これが非常に細く、錆びや金属疲労で容易に折れます。このバネが折れると、カチャカチャというラチェット動作そのものが機能しなくなり、ただの「重くて使いにくい鋏」に成り下がります。
  • 異物の噛み込みによる固着: スライドするギアや溝の隙間は、木屑や樹液(ヤニ)、土埃にとって格好の侵入場所です。特に松ヤニのような粘着質の樹液が内部に入り込み、乾燥して固まると、接着剤のように部品を固着させてしまいます。シンプルな鋏なら拭き取れば済みますが、分解困難なラチェット式の内部でこれが起きると、致命的です。

自分での分解や刃の研ぎ直しなどメンテナンス困難

良い道具を長く使う楽しみの一つに「メンテナンス」がありますが、ラチェット式はこの点においてもユーザーフレンドリーではありません。 多くのラチェット鋏は、ブラックボックス化されたユニット構造になっており、ユーザーによる分解を想定していません。特殊な形状のネジ(トルクスネジなど)が使われていたり、スナップリングプライヤーという特殊工具が必要だったりと、分解へのハードルが非常に高く設定されています。

仮に分解できたとしても、中の微細なバネやワッシャーが飛び出して紛失したり、再組み立ての際にバネのテンション(張り具合)を元通りに調整できなくなったりするリスクが高いのです。 また、「刃を研ぐ」という基本的なケアも困難です。アンビル式の刃は、両刃(V字グラインド)であったり、フッ素コーティングが施されていたりするため、片刃のバイパス鋏のように「砥石で裏を押し、表を研ぐ」というシンプルな手順が通用しません。アンビル(受け台)側のプラスチックや軟質金属が摩耗して溝ができた場合、交換部品が入手できなければ、鋏としての寿命はそこで尽きてしまいます。

プロ用のバイパス鋏(例:岡恒やFELCOなど)が、ネジ一本、バネ一つから部品を取り寄せて数十年使い続けられる「一生モノ」であるのに対し、ラチェット式は構造的に「使い捨て」に近い運用にならざるを得ないのが現実です。

実際に使用した人の悪い評判や口コミに見る不満点

カタログスペックだけでは分からない「現場のリアルな声」も確認しておきましょう。私が運営するコミュニティや、大手通販サイトのレビュー欄で見かけるラチェット式への不満は、驚くほど共通しています。

ユーザーの不満(口コミ) その背景にある要因
「カチャカチャやるのが面倒で、結局普通の鋏に戻った」 作業リズムの分断によるストレス。数本なら良いが、連続作業には不向き。
「思ったより重くて、長時間作業していると腕がパンパンになる」 本体重量の重さと、ハンドルを大きく開く動作による伸筋への過負荷。
「切り口が汚くて、大事な盆栽には怖くて使えない」 アンビル式の圧挫による組織破壊。美観と植物の健康への懸念。
「一度ヤニで固まってしまったら、掃除ができなくて捨ててしまった」 複雑な内部構造への異物侵入と、メンテナンス性の悪さ。

もちろん、「握力が弱くなった母でも庭木が切れた!」という喜びの声も存在します。しかし、それはあくまで「たまに数本切るだけ」という限定的なシチュエーションでの評価であり、園芸を趣味として本格的に楽しむ層からは、厳しい評価が下される傾向にあります。

予算が許すならラチェット式より電動剪定鋏が最適

最新の充電式電動剪定鋏の製品イメージ。ラチェット式の欠点を克服したツール

和盆日和

ここまでラチェット式のデメリットばかりを並べてしまい、もしかすると「じゃあ、握力が弱い私はどうすればいいの?園芸を諦めろと言うの?」と不安にさせてしまったかもしれません。ですが、安心してください。現代のテクノロジーは、私たちが抱える身体的な課題に対して、ラチェット式よりもはるかに合理的で、植物にも優しい解決策を用意してくれています。それが、近年急速に普及しつつある「充電式電動剪定鋏」です。

かつて電動剪定鋏といえば、バッテリーを背負い、ケーブルで本体と繋ぐような大掛かりな装備で、価格も10万円以上するプロの果樹農家専用の道具でした。しかし、リチウムイオンバッテリーの小型化とモーター技術の進化により、現在はバッテリー内蔵型で、女性でも片手で軽々と扱えるモデルが数多く登場しています。

私がラチェット式の代替として電動式を強く推奨する理由は、単に「楽だから」だけではありません。ラチェット式が抱える構造的な欠陥を、電動式はほぼすべてクリアしているからです。

比較項目 ラチェット式(手動) 電動剪定鋏(充電式)
切断動作 複数回握る(カチャカチャ) トリガーを引くだけ(ワンタッチ)
所要時間 3.0秒〜5.0秒 / 本 0.3秒〜0.5秒 / 本
切断原理 アンビル式(押し潰し) バイパス式(切り抜き)※多くのモデル
身体への負荷 手首・伸筋への反復負荷 指一本の負荷のみ(ほぼゼロ)

特筆すべきは、その圧倒的な「タイムパフォーマンス」と「切断面の美しさ」です。 電動剪定鋏は、トリガーを軽く引くだけで、強力なモーターが刃を一瞬で開閉させます。直径25mm〜30mm程度の枝であれば、ものの0.5秒でスパッと切断完了です。ラチェット式のように何度も握り直す必要も、ハンドルを大きく開いて手が痛くなることもありません。何百本切ろうとも、指一本の労力で済むため、腱鞘炎のリスクから完全に解放されます。

また、多くの家庭用電動剪定鋏は、植物に優しい「バイパス形状(受け刃と切り刃が擦れ合うタイプ)」を採用しています。これにより、ラチェット式アンビルのような「組織の圧挫」や「皮残り」が起きにくく、大切な庭木や盆栽を傷めることなく、健康的な剪定が可能になります。 価格面でも、AmazonなどのECサイトでは、バッテリー2個付きで1万円〜2万円台(マキタ互換バッテリー対応モデルなら数千円台)から購入可能な製品が増えており、ラチェット式を何度も買い替えたり、身体を痛めて通院したりするコストを考えれば、十分に元が取れる投資だと言えます。

もちろん、充電の手間や、雨天時に使えないといった電動特有の制約はありますが、「握力不足を補う」という目的において、これ以上の正解はないと私は確信しています。もし予算が許すのであれば、ラチェット式で妥協せず、電動式へのステップアップを検討してみてください。

おすすめしない人の特徴と失敗しない選び方の基準

剪定の目的や握力の有無によって、バイパス鋏、電動鋏、ラチェット式を振り分ける選び方チャート

和盆日和

ここまで詳細に解説してきましたが、それでも「電源のない場所で使いたい」「やはり手動の道具が好きだ」という理由で、ラチェット式を検討される方もいらっしゃるでしょう。道具選びに絶対の正解はありませんが、"間違いなく後悔する組み合わせ"は存在します。 ご自身が以下の「おすすめしない人」に当てはまっていないか、最終チェックとして確認してみてください。

1. 左利きのユーザー(The Left-Handed)

前述の通り、ラチェット式剪定鋏は構造上、右利き専用に特化しています。左手で使用すると「刃離れ」による噛み込みが頻発し、作業にならないばかりか、鋏を破損させる原因になります。左利きの方は、左利き専用のバイパス鋏を探すか、左右関係なくトリガー操作だけで使える電動剪定鋏を選ぶのが賢明です。

2. 精密な剪定を求める人(バラ愛好家・盆栽家)

バラの剪定位置(芽の数ミリ上)や、盆栽の枝透かしなど、ミリ単位の精度が求められる作業にラチェット式は不向きです。アンビル刃の厚みで狙いが定めにくい上、切断面が潰れることでそこから枯れ込み(ダイバック)が入るリスクが高いためです。大切なコレクションを守るためにも、切れ味鋭い専用の鋏を使ってあげてください。

3. 手が小さい女性・高齢者

「力の弱い女性に」と宣伝されがちですが、実際にはハンドル全開時の幅が広く、手が小さいと非常に握りにくいのが現実です。購入する際は、必ず実物を手に取り、自分の手のサイズで無理なくラチェット操作(握る→開くの繰り返し)ができるかを確認してください。もし指先しか掛からないようなら、購入は見送るべきです。

逆に、ラチェット式が活躍する「適任者」とは? それは、「庭の隅に積んである枯れた太い枝を、ゴミ袋に入るサイズに解体したい人」です。枯れ木(ドライウッド)は非常に硬く、バイパス鋏の刃を欠けさせる恐れがありますが、アンビル式のラチェット鋏なら、その粉砕力を遺憾なく発揮できます。切断面の綺麗さを気にする必要もないため、まさに「解体用クラッシャー」として、これ以上ない相棒になってくれるでしょう。

剪定鋏ラチェット式のデメリット総括と最終的な結論

美しい盆栽と剪定鋏のある風景。心地よい園芸の時間を表現したイメージ

和盆日和

長くなりましたが、今回の記事の結論をまとめます。 ラチェット式剪定鋏は、ホームセンターの店頭で「魔法の道具」のように魅力的に映るかもしれません。しかし、その「楽に切れる」という一点のメリットの裏側には、作業効率の低下、植物へのダメージ、メンテナンスの困難さ、そして人間工学的な無理といった、多くのデメリットが隠されています。

私たちが道具を選ぶとき、つい「切れるかどうか(切断能力)」ばかりに目を向けがちですが、本当に大切なのは「その道具を使って、どのような時間を過ごしたいか」ではないでしょうか。 「カチャ、カチャ」と機械的な動作に追われ、潰れた切り口に心を痛めながら作業をするのか。それとも、スパッと美しい切り口を残し、植物との対話を楽しみながら、心地よいリズムで庭仕事を進めるのか。

もしあなたが、これから長く園芸を楽しんでいきたいと願うなら、安易にラチェット式に飛びつくのではなく、自分の握力に合ったサイズの高品質なバイパス鋏を選ぶか、あるいは思い切って電動剪定鋏という新しい選択肢を取り入れてみることを強くおすすめします。 道具は、あなたの庭仕事のパートナーです。一時の「楽さ」に惑わされず、あなたと植物にとって、本当に優しい一本を選んであげてくださいね。

※本記事で紹介した内容は、一般的なラチェット式剪定鋏の構造的特性に基づく解説です。製品によっては改良されたモデルも存在しますので、購入の際はメーカーの仕様書をよくご確認ください。

以上、和盆日和の「S」でした。

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