
和盆日和
こんにちは。和盆日和、運営者の「S」です。
「盆栽の針金外す時期」を検索して、このページにたどり着いたあなたは、おそらく「せっかく時間をかけて形をつけたのに、傷をつけたくない」「食い込みが心配だけど、早く外しすぎたら枝が戻りそうで怖い」といった不安を抱えているのではないでしょうか。私も盆栽を始めたばかりの頃は、この「外し時」の判断でいつも迷っていました。
針金掛けは盆栽の形を決める重要な作業ですが、その対となる「針金外し」は、樹の健康と美観を左右する、まさに運命の分かれ道です。特に、黒松やモミジなど樹種によって成長サイクルが全く異なるため、「何ヶ月経ったら外す」という固定的な答えがないのが難しいところですね。植えたばかりの若木だと、成長期にはわずか数ヶ月で針金が樹皮を突き破ることもあるんです。
この記事では、私が様々な資料や実体験を通して学んだ、植物生理学に基づいた針金除去の原則を解説していきます。食い込みを避け、枝の戻りを最小限に抑えるための具体的な樹種別のプロトコルや、万が一時期を逃した際の直し方まで網羅していますので、ぜひ参考にしてください。この記事を読み終える頃には、あなたも自信を持って針金を外せるようになるかなと思います。
記事のポイント
- なぜ「○ヶ月」という固定的な答えがないのか
- 松柏類(松、真柏)と雑木類(モミジ)の除去時期の違い
- 針金が食い込んだ後の具体的な対処法と直し方
- 枝の「戻り(スプリングバック)」を防止する効果的な方法
樹種別で判断する盆栽の針金外す時期
針金を外す時期の判断で最も重要なのは、樹木が持つ「成長の速度」と「樹皮の特性」を理解することです。松とモミジでは、形成層の活発化する時期が異なるため、チェックすべきタイミングも変わってきます。ここでは、樹種ごとに最適解を見ていきましょう。

和盆日和
- 盆栽の針金は何ヶ月で外すべきか
- 黒松や五葉松の食い込みと除去基準
- モミジなど雑木類の針金外しは早めに
- サツキの針金掛けと外すタイミング
- 枝の跳ね返りや戻りを防止するコツ
盆栽の針金は何ヶ月で外すべきか
「盆栽の針金は何ヶ月で外せばいいですか?」という質問をよく頂きますが、結論からお伝えすると、「○ヶ月」という絶対的な正解は存在しません。これは少し意地悪な答えに聞こえるかもしれませんが、盆栽の世界において最も重要な事実なんです。
なぜなら、樹木の肥大成長(幹や枝が太くなること)は、カレンダー通りには進まないからです。樹木が太くなるのは、樹皮のすぐ下にある「形成層」という部分が細胞分裂を起こすからなのですが、この活動は「気温」「水分量」「その木が持つ樹勢(元気さ)」によって劇的に変化します。
例えば、5月から6月にかけての「成長期」に針金を掛けた場合、樹木は水を吸い上げて急激に太ろうとします。この時期だと、わずか1ヶ月〜2ヶ月で針金がパンパンに食い込んでしまうことも珍しくありません。一方で、成長が緩やかになる10月以降の「休眠期・充実期」に掛けた場合は、半年以上そのままにしておいても食い込まないことがあります。
【注意】カレンダーよりも「目視」を信じる
教科書的に「松は半年、雑木は3ヶ月」といった目安はありますが、それを鵜呑みにしてカレンダーだけを見ていると失敗します。特に若い木や、肥料をしっかり効かせている木は予想以上のスピードで太ります。重要なのは期間ではなく、「針金が樹皮に接触し始めたか」という視覚的なサインを優先して確認することです。毎日水をやる際に、枝の裏側などをチラッと見る習慣をつけるのが一番の近道ですね。
また、針金外しは、「樹皮の肥大による食い込みリスク」と「木質化(リグニン化)による形状固定の恩恵」のトレードオフです。早く外しすぎれば形が戻り、長く置きすぎれば傷になる。このギリギリのラインを見極めるのが、盆栽の難しさであり、面白さでもあるのかなと思います。
黒松や五葉松の食い込みと除去基準
松柏類(葉が針のような常緑樹)は、盆栽の王道ですが、その中でも「黒松」と「五葉松」では、針金除去に対する戦略が180度異なります。この違いを理解していないと、取り返しのつかない失敗をしてしまうかもしれません。
黒松(クロマツ)の針金除去
黒松は非常に樹勢が強く、成長も早いです。そして何よりの特徴は、樹齢を重ねると樹皮が荒れて亀甲状に割れてくることです。このゴツゴツとした樹皮は、少々の針金傷なら飲み込んで隠してくれる「天然の緩衝材」の役割を果たします。
そのため、黒松の除去基準は、「少しくい込んでから外す」のが定石とされています。黒松の枝は弾力が強く、反発力も凄まじいです。中途半端な時期に外すと、すぐに元の真っ直ぐな状態に戻ろうとします(スプリングバック)。あえて樹皮に少し食い込むまで置くことで、物理的に枝の組織を締め付け、形状を記憶させるわけです。
目安としては、秋(10月〜12月)に掛けた針金は、翌年の春〜初夏(6月頃)に食い込みが始まります。この時期を見逃さず外せば、傷は将来的に樹皮の荒れに同化して目立たなくなります。
五葉松(ゴヨウマツ)の針金除去
一方で、五葉松は全く逆の対応が求められます。五葉松は成長が緩やかで、樹皮が女性の肌のように滑らかで薄いのが特徴です。この美しい幹肌こそが五葉松の見どころなのですが、ここに一度でも螺旋状の針金傷がつくと、数年から数十年消えない致命的な傷として残ってしまいます。荒れた樹皮を持つ黒松とは違い、傷を隠す術がないのです。
ですので、五葉松の場合は「食い込み始める直前」あるいは「食い込みの兆候が見えた瞬間」に外すのが鉄則です。「形がまだ固定されていないかも?」と不安になっても、傷をつけるよりはマシです。一度外して、位置をずらして掛け直す方が安全ですね。
具体的なタイミングとしては、5月上旬頃に行う「芽摘み」の作業時がベストです。この時期は樹全体を細かく観察するので、前年に掛けた針金が食い込んでいないか、一本一本チェックする絶好の機会になります。
モミジなど雑木類の針金外しは早めに

和盆日和
モミジ、カエデ、ケヤキといった雑木類(落葉樹)は、四季折々の変化を楽しむ樹種ですが、特に冬場に葉をすべて落とした「寒樹(かんじゅ)」の姿が美学の頂点とされています。葉がない状態では、幹の模様から枝の先まで全てが露わになります。つまり、針金の傷跡が最も目立ってしまう樹種なのです。
春の爆発的な肥大成長に要注意
雑木類の管理で最も恐ろしいのが、春(5月〜6月)の爆発的な肥大成長です。この時期、樹木は大量の水分を吸い上げ、驚くべき速度で幹を太らせます。データや経験則から言うと、この時期に掛けた針金は、わずか1ヶ月〜1ヶ月半で危険水域に達します。
例えば、5月のゴールデンウィークに針金を掛けたとしましょう。梅雨入り前の6月中旬にはもう食い込みが始まり、7月まで放置してしまった場合、針金が樹皮を突き破って木質部(幹の中身)まで深く埋没してしまうことがあります。こうなると、針金を除去しても深い溝が残り、その傷が癒えるまでには数年を要するか、最悪の場合はその枝を切り落として作り直す必要が出てきます。
【ポイント】雑木類は「掛けては外す」の繰り返し
雑木類で無傷の美しい枝を作るコツは、「一度の針金掛けで完成させようとしない」ことです。食い込みそうな時期(特に夏前)には、まだ形がついていなくても一度外してしまいましょう。そして、樹を休ませた後の秋(9月〜10月)など、成長が落ち着いた時期に、前回と位置をずらして再度掛ける。この「断続的な整姿」こそが、プロが実践しているテクニックです。
サツキの針金掛けと外すタイミング
華やかな花を楽しむサツキですが、盆栽としての材質は「硬くて脆い」という厄介な性質を持っています。無理に曲げると「パキッ」と折れやすい一方で、一度曲げても反発力で戻りやすいというジレンマがあります。
サツキの整姿は、花が終わった直後の6月頃に行うのが一般的です。しかし、ここからが要注意です。6月の剪定・針金掛けが終わると、すぐに日本特有の「梅雨」がやってきます。雨が多く湿度の高いこの時期、サツキは水を吸って一気に成長します。盆栽界隈では、この期間を「1ヶ月勝負」と呼ぶこともあるほどです。
6月に掛けた針金は、夏の成長期を経て、秋口には食い込みのリスクが最大化します。サツキの樹皮は薄く、一度食い込むと剥がれやすいため、非常にデリケートです。「もう少し置いて形を固めたい」という欲求と、「食い込む前に外さなきゃ」という焦りの戦いになりますが、サツキにおいても「傷は美観を損なう」という原則は変わりません。秋に一度チェックし、少しでも食い込みそうなら外す勇気を持ってください。もし形が戻ってしまっても、また来年の花後に掛け直せば良いのですから。
枝の跳ね返りや戻りを防止するコツ
針金を外した直後、「よし、綺麗に曲がった!」と思っていても、数日〜数週間経つと枝がスルスルと元の位置に戻ってしまうことがあります。これを「スプリングバック(戻り)」と呼びます。特に太い枝や、成長の早い枝でよく起こる現象です。
まず前提として、戻りは失敗ではありません。それは枝が生きていて、成長しようとする力が働いている証拠です。「戻ってしまった...」と落ち込む必要はありませんよ。
効果的な戻り対策
- 再整姿(リセット): 戻ってしまった場合は、再度針金を掛け直します。この時、最も重要なのは「前回の針金跡を避ける」ことです。前回と同じ軌道(溝)に針金が入ると、特定の部分に圧力が集中し、樹皮へのダメージが蓄積して枯れる原因になります。螺旋のピッチ(間隔)を変えるか、前回が右巻きなら左巻きにするなどして、新しい樹皮面に針金が当たるように工夫しましょう。
- オイコミ(追い込み): 最初から「予定している角度よりも、少しきつめに曲げておく」というテクニックです。戻る分を計算に入れて、深く曲げておくわけですが、これは枝を折るリスクも高まるので、慣れてきてから挑戦するのが良いでしょう。
- 吊り・引っ張り(ガイズワイヤー): 針金をぐるぐると巻くのではなく、枝の先端や途中から針金を垂らし、鉢の縁や他の枝に引っ掛けて引っ張る方法です。これなら樹皮への負担を一点に集中させず、長期間固定することが可能です。特に五葉松など、幹肌を守りたい樹種では非常に有効な手段です。
盆栽の針金外す時期と食い込み対策
ここからは、実際に針金を外す際の実践的なテクニックについて解説します。「たかが針金を外すだけ」と思われがちですが、実は掛ける時以上に神経を使う作業です。特に食い込んでしまった後の除去は、外科手術のような慎重さが求められます。

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- 針金の食い込みの直し方とケア
- 銅線やアルミ線による外し方の違い
- 盆栽専用ニッパーなど道具の選び方
- 除去後の傷口保護には癒合剤を使う
- まとめ:盆栽の針金外す時期を見極める重要性
針金の食い込みの直し方とケア
どんなに注意していても、「気づいたら食い込んでいた!」ということは起こり得ます。そんな時、絶対にやってはいけないことがあります。それは、「食い込んでいる針金を、逆回しに解こうとすること」です。
【警告】無理に解くと樹皮が剥がれます
針金が樹皮に食い込んでいる状態で、無理に引っ張ったり解こうとしたりすると、針金が通っていた溝の周囲の樹皮がベリッと剥がれてしまいます。これは、単なる食い込み傷よりも遥かに重傷です。水吸い(水の通り道)を断絶させ、その枝を枯らせてしまう原因になりかねません。
食い込みを確認したら、迷わず「切断による除去」を選択してください。もったいないと思うかもしれませんが、盆栽の価値を守るための必要経費です。ニッパーを使って、螺旋の山を一箇所ずつパチパチと切断していきます。そして、埋まってしまった針金の断片を、ピンセットで真上に(樹皮を擦らないように)慎重に抜き取ります。
もし深い溝ができてしまった場合は、その傷が自然に癒える(巻き込む)のを待つしかありません。数年かかることもありますが、その傷もまた樹の歴史として受け入れるか、あるいは「犠牲枝(ぎせいし)」としてその枝を徒長させ、傷口の回復を早めるという高等テクニックもあります。
銅線やアルミ線による外し方の違い
盆栽に使われる針金には、主に「銅線」と「アルミ線」の2種類があり、それぞれ物理的な性質が異なります。自分が使った針金の種類によって、外し方のアプローチを変える必要があります。
| 材質 | 主な特性 | 除去時の推奨手法と理由 |
|---|---|---|
| 銅線 (Copper) |
加工硬化する (曲げるとカチカチに硬くなる) |
【原則:全切断】 一度曲げて硬化した銅線は、もう元の柔らかさには戻りません。解こうとしてもバネのように反発し、枝を強烈に締め付けてしまいます。手間はかかりますが、一巻きごとに切断するのが唯一の安全策です。 |
| アルミ線 (Aluminum) |
柔らかい (展性に優れる) |
【切断推奨】 銅線ほど硬くならないため、食い込みがなければ手で解くことも可能です。しかし、摩擦で樹皮を傷めるリスクはゼロではありません。初心者の方や、少しでも食い込みがある場合は、やはり切断して取り除くのがベストです。 |
特に松柏類の展示会用盆栽などで銅線を使った場合、除去作業にはかなりの時間を要します。大きな盆栽だと、針金を外すだけで半日かかることもザラにありますので、余裕を持ったスケジュールで臨んでくださいね。
盆栽専用ニッパーなど道具の選び方

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「道具なんて100円ショップのニッパーでいいでしょ?」と思っている方、ちょっと待ってください。針金外しにおいて、道具の性能は仕上がりを大きく左右します。
盆栽専用のワイヤーカッター(針金切り)は、一般的なニッパーとは形状が異なります。刃先が非常に細く作られており、枝と針金のわずかな隙間にスッと入り込むように設計されています。また、刃の片面が平らになっているものが多く、樹皮に傷をつけずにギリギリのところで切断できるのです。
一方で、電工用などの一般的なニッパーは刃先が厚く、切断する瞬間に「パチン!」という衝撃とともに、周囲の樹皮を押し潰してしまうことがあります。これを「押し切り」と言いますが、デリケートな雑木類などでは、これが原因で枝が枯れ込むこともあります。
初心者の方こそ、最初に良い道具を持つべきです。おすすめの道具については、以下の記事で詳しく紹介しています。
初心者におすすめの盆栽道具セットと選び方
プロの切断テクニック
ニッパーを入れる際は、刃の平らな面を樹皮側に向けないのがコツです。「えっ、逆じゃないの?」と思われるかもしれませんが、平らな面を密着させると、誤って樹皮を挟んでしまうことがあるんです。あえて少し角度をつけ、針金に対して垂直に刃を入れることで、安全かつ確実に切断することができます。
また、権威ある盆栽道具メーカーの兼進刃物製作所などのサイトでは、具体的な刃の形状や使い方が詳しく解説されていますので、道具選びの参考にしてみるのも良いでしょう。
(出典:株式会社兼進刃物製作所『盆栽道具の基礎知識』)
除去後の傷口保護には癒合剤を使う

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無事に針金を外し終えたとしても、そこで安心はできません。特に食い込みがあった箇所や、作業中に誤って爪で引っ掻いてしまった箇所には、アフターケアが必要です。
人間が怪我をした時に軟膏を塗るように、盆栽にも「癒合剤(ゆごうざい)」という薬を塗布します。代表的なものに「キヨナールエース」や「トップジンMペースト」などがあります。これらはホームセンターの園芸コーナーでも手に入ります。
癒合剤を塗る3つのメリット
- 殺菌・消毒: 傷口から雑菌が入り、木が腐るのを防ぎます。
- 乾燥防止: 傷口が乾くと形成層が死んでしまい、傷が塞がらなくなります。かさぶた代わりになって保湿してくれます。
- カルス形成の促進: 傷を治そうとする組織(カルス)の形成を助け、傷跡の巻き込み(修復)を早めます。
裏技的なテクニックとして、食い込み傷が深い場合、傷の縁(盛り上がって硬くなった部分)を、よく切れるナイフで薄く削ぎ落とし、新しい緑色の形成層を出してから癒合剤を塗ると、治癒スイッチが入り、より早く綺麗に傷が塞がることが知られています。ただし、これは少し勇気がいる作業なので、まずは目立たない枝で練習してみるのが良いかもしれません。
まとめ:盆栽の針金外す時期を見極める重要性
ここまで、盆栽の針金外す時期と、その後のケアについて長文で解説してきました。最後に改めてお伝えしたいのは、「観察こそが最大の技術である」ということです。
「いつ外せばいいのか?」という問いに対して、カレンダーの日付で答えることはできません。答えはすべて、目の前にあるあなたの盆栽が持っています。枝の太り具合、樹皮の張り、針金の食い込み具合...それらを毎日観察し、「あ、そろそろ苦しそうだな」と感じ取ってあげることが、盆栽との対話なのだと思います。
もし判断に迷ったら、「傷になるくらいなら、外してしまおう」と考えてください。形が戻ってしまっても、また掛ければ済みます。でも、深く刻まれた傷は二度と元には戻りません。安全策を取ることが、結果として長く盆栽を楽しむ秘訣です。
この記事が、あなたと愛樹との付き合い方のヒントになれば嬉しいです。季節の変わり目、ぜひ愛樹の枝先をじっくりと観察してあげてくださいね。
以上、和盆日和の「S」でした。