
和盆日和
こんにちは。和盆日和、運営者の「S」です。
庭木の手入れや本格的なガーデニングに精を出していると、必ずと言っていいほど耳にするのが「岡常(オカツネ)」の剪定鋏という名前ではないでしょうか。プロの植木屋さんや造園業者さんが、腰のサックにあの赤と白のグリップを差している姿を見たことがある方も多いはずです。「プロが使っているなら間違いないはず」と気になっている方も多いと思います。
しかし、いざ自分で購入しようと調べてみると、「180mmや200mmといったサイズはどう選べばいいの?」「海外ブランドのフェルコと比べて何が違うの?」といった疑問が次々と湧いてきますよね。また、安来鋼を使用しているがゆえの「錆びやすさ」や、長く使うための「研ぎ方」、さらには最近ネット通販で横行している「精巧な偽物」の存在など、購入前に知っておくべき情報は山ほどあります。
今回は、岡常の剪定鋏の魅力を余すことなくお話しします。単なるスペック比較ではなく、現場で使う人間だからこそ分かる「手応え」や「メンテナンスの勘所」まで、じっくりと深掘りしていきましょう。
記事のポイント
- 岡常の剪定鋏がプロに絶大な信頼を寄せられる理由と、象徴的な紅白ハンドルの機能性
- 自分の手の大きさや作業内容に合わせた最適なサイズの選び方と各モデルの詳細
- 世界的なライバルであるスイス製「フェルコ」と比較して分かる、日本刀のような切れ味の違い
- 一生モノとして使い続けるために絶対に欠かせないメンテナンス方法と、偽物を掴まないための対策
プロが愛用する岡常の剪定鋏の魅力と特徴
ここでは、なぜこれほどまでに岡常の剪定鋏が国内外の園芸ファンやプロフェッショナルから熱狂的に支持されているのか、その具体的な理由と製品としての特徴を深掘りしていきます。単なる道具を超えた、その機能美に迫ってみましょう。

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評判の高い紅白ハンドルの機能美
岡常の剪定鋏と聞いて、誰もが真っ先に思い浮かべるのは、あの鮮烈な「赤と白のハンドル」ではないでしょうか。一見すると、日本の国旗を模したような、あるいは少しレトロで武骨な印象を受けるこのカラーリングですが、実は単なるブランドの目印やデザイン上のアクセントというだけではありません。ここには、過酷な現場で働くプロフェッショナルのための、徹底した「機能主義」が貫かれています。
私たちが作業する庭や畑、あるいは山林というのは、基本的に土の茶色や葉の緑色が支配する世界です。もし鋏の持ち手が、お洒落なダークグリーンや、土汚れが目立たない黒色だったとしたらどうなるでしょうか。作業に夢中になって、ふと足元の草むらに鋏を置いた瞬間、あるいは剪定した枝葉の山の中に落としてしまった瞬間、それは周囲の景色と同化して保護色となり、見つけ出すのが非常に困難になってしまいます。
自然界に存在しない色の組み合わせ
岡常が採用している「赤」と「白」の組み合わせは、自然界の緑の中では補色に近い関係にあり、非常に目立つ色です。夕暮れ時の薄暗い作業現場でも、剪定した枝葉が散乱する足元でも、「あ、そこに鋏があるな」と直感的に視認できるのです。これは、大切な道具の紛失を防ぐという経済的なメリットだけでなく、鋭利な刃物を踏んでしまって怪我をするというリスクを回避する、安全管理上の重要な機能でもあります。
実際に私も、夕方まで庭作業をしていて、手元が暗くなってきた時にこの紅白カラーに助けられた経験が何度もあります。もしこれが地味な色の鋏だったら、翌朝まで見つけられず、夜露で錆びさせてしまっていたかもしれません。この派手な見た目は、「和のテイスト」である以前に、現場での実用性を極限まで高めるための「機能美」そのものなのです。無駄な装飾を削ぎ落とし、必要な機能だけを残した結果生まれたこのデザインこそが、世界中のガーデナーを魅了してやまない理由の一つと言えるでしょう。
ここがポイント
紅白のハンドルは、デザイン性よりも「視認性」と「安全性」を最優先した結果生まれた、プロ仕様の証です。草むらでも一瞬で見つかる安心感は、一度味わうと手放せません。
180mmや200mmなど種類の選び方
岡常の剪定鋏(ユニークシリーズ)を購入しようとカタログや販売サイトを見ると、主に「101(180mm)」「103(200mm)」「104(210mm)」という3つの型番が並んでおり、どれを選べば良いのか迷ってしまうことが多いかと思います。これらは単にサイズが違うだけでなく、想定されているユーザー層や作業の目的が明確に異なります。自分に合わないサイズを選んでしまうと、手が疲れたり、本来の切れ味を発揮できなかったりするため、慎重に選ぶ必要があります。
各モデルの詳細スペックと推奨ユーザー
それぞれのモデルの特徴を整理しましたので、自分の手のサイズや用途と照らし合わせてみてください。
| 型番 | サイズ | 重量 | 推奨ユーザー・用途 | 詳細な特徴 |
|---|---|---|---|---|
| No.101 | 180mm | 約180g | 女性、手の小さい方、細密作業 | シリーズ中で最も小型で軽量です。女性の手にジャストフィットするサイズ感で、長時間の連続作業でも手首や肩への負担が少ないのが最大の魅力。バラの剪定など繊細なコントロールが必要な作業にも最適です。 |
| No.103 | 200mm | 約230g | 一般男性、プロの標準 | 日本人の平均的な成人男性の手の大きさに合わせて設計された、最もポピュラーなモデルです。バランスが良く、太い枝から細かい枝まで万能に対応できます。迷ったらまずこれを選ぶのが間違いありません。 |
| No.104 | 210mm | 約245g | 手の大きい方、太枝重視 | 刃の大きさはNo.103とほぼ同じですが、ハンドル(柄)部分が長く設計されています。これによりテコの原理が強く働き、より軽い力で太い枝を切断できます。手が大きい方や、欧米のユーザーに人気があります。 |
私の選び方のアドバイス
私自身は標準的な成人男性の手の大きさ(中指の先から手首まで約18cm〜19cm程度)なので、No.103(200mm)をメインに使用しており、これがジャストサイズだと感じています。握り込んだ時に指が余りすぎず、足りなすぎず、しっかりと力が刃に伝わる感覚があります。
一方で、私の妻がガーデニングをする際はNo.101(180mm)を使用しています。以前、私の200mmを貸したことがありますが、「大きすぎて手が開かないし、重くてすぐに疲れる」と言っていました。たった20mm、たった50gの差ですが、一日中何百回、何千回とハサミを開閉する剪定作業において、この差は疲労度として大きく蓄積されます。特に握力の弱い方や女性には、無理せず180mmを選ぶことを強くおすすめします。
逆に、庭に太い枝の樹木が多い場合や、握力に自信がある方、あるいは手が大きめの方は、No.104を選ぶことで、硬い枯れ枝などもバリバリと楽に切ることができるでしょう。自分の手に合った道具を選ぶことは、良い仕事をするための第一歩です。
比較して分かるフェルコとの違い
「岡常にするか、スイスのフェルコ(Felco)にするか」。これは多くの園芸愛好家、特にバラ愛好家(ロザリアン)たちが直面する究極の選択肢と言えます。どちらも世界的な名品であり、素晴らしい鋏ですが、その設計思想や目指している方向性は正反対と言っても過言ではありません。両者の違いを理解することで、より自分に合った鋏が見えてくるはずです。
硬度と切れ味の質:日本刀 vs スイスアーミーナイフ
最大の違いは、刃に使われている「鋼の硬度」と、そこから生まれる切れ味の質にあります。
- 岡常(日本): 日本の伝統的な刃物作りの技術が生かされた「安来鋼(ヤスキハガネ)」を使用しており、その硬度はHRC 60〜61という驚異的な数値を誇ります。これはカミソリや日本刀に近い硬さです。そのため、植物の繊維を押し潰すことなく、スパッと細胞を切断できます。切った瞬間に「パチン」という高く乾いた音がするのが特徴で、この音こそが良い切れ味の証です。
- フェルコ(スイス): 一方のフェルコは、HRC 54〜56程度と、岡常に比べると比較的柔らかい鋼材を使用しています。切れ味は「サクッ」という柔らかい感触です。これは、刃が欠けるのを防ぎ、長時間の作業でも衝撃を吸収して手への負担を減らすという、人間工学(エルゴノミクス)に基づいた設計思想によるものです。
メンテナンス思想の違い
この硬度の違いは、メンテナンスに対する考え方の違いにも直結しています。 岡常は「硬くて長切れする刃」を提供し、切れ味が落ちたら「ユーザーが自分で研いで切れ味を蘇らせる」ことを前提としています。研ぐ技術さえあれば、何十年でも鋭い切れ味を維持できる、まさに「育てる道具」です。
対してフェルコは、刃が柔らかいために研ぎやすい反面、刃こぼれや変形も起こりやすい傾向があります。しかし、フェルコは全てのパーツがネジ一本単位で交換可能になっており、「傷んだ部品は交換して使い続ける」というシステムを採用しています。メカニカルで合理的な欧州らしい考え方と言えるでしょう。
どちらを選ぶべき?
「道具を自分で研いで、自分だけの一丁に育て上げたい」「圧倒的な切れ味で植物へのダメージを最小限にしたい」という方は岡常。「手への負担を減らしたい」「部品交換でシステム的に維持管理したい」という方はフェルコが合っているかもしれません。
注意したい偽物の見分け方と対策

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岡常の剪定鋏はその人気の高さゆえに、残念ながら多くの偽造品(コピー商品)が市場に出回っています。特に近年は、AmazonやeBay、AliExpressなどのオンラインマーケットプレイスにおいて、中国製の安価なコピー品が「Okatsune」の名を騙って販売されているケースが後を絶ちません。これらは外見こそそっくりですが、性能は雲泥の差であり、購入者を失望させるだけでなく、作業中の破損による怪我のリスクすらあります。
精巧化する偽物の特徴
以前の偽物は、パッケージの日本語がおかしかったり(変な漢字が使われているなど)、明らかに作りが雑だったりと見分けやすかったのですが、最近のものはパッケージまでスキャンして完全にコピーしており、外見だけではプロでも見分けがつかないほど精巧になっています。
しかし、実際に使ってみるとその正体はすぐに露見します。本物の岡常が最高級の刃物鋼を使用しているのに対し、偽物は粗悪な鉄材を使用しているため、以下のような致命的な欠陥が現れます。
- すぐに切れなくなる: 数回枝を切っただけで刃が捲れたり、切れ味が鈍ったりします。
- 刃が欠ける・折れる: 焼き入れの技術が未熟なため、硬い枝を切ると刃が大きく欠けたり、最悪の場合はポッキリと折れてしまったりします。
- 噛み合わせが悪い: 刃と刃の間に隙間があり、細い枝や葉を切ろうとしても「ぐにゃっ」と挟んでしまい、切ることができません。
確実に本物を手に入れるための購入ルート
偽物を掴まないための唯一にして最大の防御策は、「信頼できる販売ルートで購入する」ことです。
最も確実なのは、地元のホームセンターや金物店、園芸専門店などの実店舗で購入することです。これらのお店は正規の卸ルートを通じて商品を仕入れているため、偽物が混入する可能性は極めて低いです。また、ネット通販を利用する場合は、Amazonであれば「Amazon.co.jp が販売、発送します」と明記されている商品を選ぶか、園芸用品を専門に扱う信頼性の高いショップ(正規代理店)を選ぶようにしましょう。定価の半額近いような異常に安い価格で出品されているものや、発送元が海外になっているショップは、リスクが高いため避けたほうが無難です。
もし偽物を買ってしまったら
切れ味が悪いだけでなく、使用中にバネが飛んだり刃が割れたりして危険です。おかしいと感じたらすぐに使用を中止し、購入したサイトの規約に従って返品や通報の手続きを行いましょう。
おすすめのケースやサックの活用
岡常の剪定鋏を手に入れたら、必ずセットで用意していただきたいのが「剪定鋏サック(ケース)」です。「ポケットに入れればいいや」と考えるのは非常に危険です。岡常の刃はカミソリのように鋭利なため、布のポケットなど簡単に突き破ってしまいますし、取り出す際に指を切ってしまう恐れもあります。
革製サックがおすすめな理由
サックには革製、合皮製、カンバス製など様々な種類がありますが、私は断然「本革製」をおすすめします。最初は硬くて鋏が入りにくいかもしれませんが、使い込むほどに革が馴染み、自分の鋏の形にぴったりとフィットするようになります。また、革には適度な吸湿性と油分があるため、保管中の鋏を錆から守る効果も期待できます。
プロの造園屋さんは、必ず腰に使い込まれた飴色の革サックをぶら下げていますよね。あれは単なるファッションではなく、作業効率と安全性を確保するための必須アイテムなのです。サックからスムーズに鋏を抜き、パチンと枝を切り、またノールックでサックに収める。この一連の流れるような動作こそが、剪定作業の醍醐味とも言えます。
岡常純正のサックもありますし、他メーカーから出ている汎用品でも「岡常対応」と書かれているものであれば問題なく使用できます。二段式になっていて、剪定鋏と一緒に剪定鋸(ノコギリ)などを収納できるタイプも便利ですね。ぜひ、自分好みのサックを見つけて、鋏と一緒に育てていってください。
岡常の剪定鋏の性能を保つメンテナンス
「岡常は錆びやすい」というのは有名な話ですが、それは裏を返せば、ステンレスのような錆びにくい合金ではなく、切れ味を最優先して炭素を多く含む純粋な鋼材を使っている証拠でもあります。ここでは、この素晴らしい鋏を錆びさせず、一生モノにするためのメンテナンス方法について、私の実践している方法を交えて解説します。

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錆びるのを防ぐ日常の手入れ方法
楽しい剪定作業が終わった後、疲れているからといって、鋏をそのまま道具箱に放り込んでいませんか?岡常の鋏にとって、水分と植物の樹液(ヤニ・シブ)は大敵です。これらを放置すると、一晩で茶色い錆が浮いてきてしまうことも珍しくありません。
使用後の3ステップケア
私が実践している日々のルーティンは以下の通りです。
- 汚れを拭き取る: まずは乾いた布で、刃やハンドルについた土汚れや水分をしっかりと拭き取ります。
- ヤニを落とす: 刃の裏側や刃先には、目に見えなくても植物のヤニが付着しています。これが固まると刃の動きが重くなり、錆の原因にもなります。「ヤニ取りスプレー」や、消しゴムのように擦って汚れを落とす「クリーンメイト」を使って、刃の表面をピカピカにします。
- 油を塗る: 最後に、錆止めのための油を刃全体、特にカシメ(支点)部分に薄く塗布します。
このほんの数分のひと手間を掛けるだけで、鋏の寿命は何倍にも伸びます。錆びてから落とすのは大変ですが、錆びさせないのは毎日の習慣でどうにでもなるのです。道具を大切にすることは、植物を大切にすることと同じだと私は考えています。
切れ味が復活する正しい研ぎ方

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岡常の鋏は、研げば研ぐほど愛着が湧く道具です。「研ぎ」と聞くと、専門的な技術が必要で難しそうに感じるかもしれませんが、基本的なポイントさえ押さえれば、誰でも家庭で切れ味を復活させることができます。むしろ、自分で研ぐことで、その日の刃の状態を知ることができ、より愛着が深まります。
準備するものと基本姿勢
用意するのは、岡常純正の砥石(No.412)または一般的な中砥石(#1000程度)です。砥石は使用前に水に浸して十分に吸水させておきます。
研ぎの基本ルールは、「表はしっかり研いで、裏はバリを取るだけ」です。
具体的な研ぎの手順
- 表刃(切刃)を研ぐ: 鋏を開き、刃の表側(斜めになっている面)を砥石に当てます。この時、刃の元々の角度(約23度〜25度)を変えないように注意してください。砥石を刃先に向かって、一方向に滑らせるように動かします。円を描いたり、往復させたりすると角度が定まらず刃が丸くなってしまうので推奨しません。刃先全体に「かえり(バリ)」が出るまで研ぎ進めます。
- 裏刃の処理(最重要): ここが最大のポイントです。岡常の刃の裏面には「裏スキ」という微妙な窪みがあり、これによって摩擦を減らしています。そのため、裏側は絶対に角度をつけて研いではいけません。砥石を裏面にピタリと平らに当て、表を研いだ時に出た「かえり」を軽く撫でて取り除くだけに留めます。
失敗しないための鉄則
裏刃をガリガリと研いでしまうと、刃の噛み合わせに隙間ができ、全く切れなくなってしまいます。裏は「平らに、優しく、バリを取るだけ」。これを呪文のように唱えながら作業してください。
V型バネの交換と調整のポイント

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岡常の鋏の特徴の一つに、ハンドルの間にあるユニークな形状のバネがあります。これは「V型バネ(松葉バネ)」と呼ばれ、多くの剪定鋏で採用されている虫バネ(コイル状のバネ)とは一線を画しています。
このV型バネの最大の利点は、負荷が均一にかかるため開閉が非常にスムーズであること、そして構造がシンプルなので、剪定した枝や葉がバネの隙間に挟まりにくいことです。虫バネだと、隙間に小枝が挟まってハサミが閉じなくなることがよくありますが、岡常ではそのストレスがほとんどありません。
バネは消耗品、簡単に交換可能
長く使っていると、金属疲労でこのバネが飛んでしまったり、折れてしまったりすることがあります。しかし、心配はいりません。これは故障ではなく、あくまで消耗品の寿命です。ホームセンターやネット通販で、交換用のバネ(No.422など)が数百円で販売されています。工具なしで手で簡単に取り付けられるので、予備を1〜2本持っておくと、作業中にバネが飛んでもすぐに復帰できて安心です。
ナットとボルトの調整(通称:オディナット)
また、ユーザーからよく聞くトラブルに「使っているうちに真ん中のナットが勝手に締まって、鋏が動かなくなる」というものがあります。岡常の鋏は、中心軸に独自の緩み止め機能を持つナットを採用しています。正しい調整方法は、ナットを回すのではなく、反対側の「ボルト(ネジ)」を回して最適な刃のクリアランス(遊び)を作り、その位置を保持したままナットを締め付けるという手順です。少しコツがいりますが、自分の好みの固さに調整できるのも、プロ仕様ならではの奥深さです。
椿油など使用するオイルの選び方
メンテナンスの仕上げに塗るオイルですが、私は断然「椿油(つばきあぶら)」をおすすめします。昔から日本の大工道具や刀剣の手入れに使われてきた伝統的なオイルです。
椿油をおすすめする最大の理由は、それが「不乾性油」であるという点です。サラダ油などの乾性油は、時間が経つと酸化してベタベタになったり固まったりしますが、椿油は長期間液体の状態を保ち、薄い油膜を作って酸素を遮断し、強力な防錆効果を発揮します。また、純粋な植物性オイルなので、剪定した植物の切り口に付着しても害を与えませんし、ハンドルのゴムやプラスチック部品を劣化させる心配も少ないのです。
WD-40やクレ5-56との使い分け
よくガレージにある「WD-40」や「クレ5-56」などの潤滑スプレーはどうでしょうか?これらは洗浄力や水置換性(水を追い出す性質)には非常に優れているため、濡れた鋏の水分を飛ばしたり、頑固な汚れを落としたりするのには最適です。しかし、揮発性が高く、油膜が長期間残らないため、長期保管時の錆止めとしては少し心許ない場合があります。また、一部のゴム製品を劣化させる可能性もあります。
私の使い分けとしては、「汚れ落としや水気飛ばしにはWD-40、その後の仕上げと長期保管用には椿油」というのがベストプラクティスだと考えています。
総括:一生モノの岡常の剪定鋏を使いこなす
ここまで岡常の剪定鋏について長々とお話ししてきましたが、最後に一つお伝えしたいことがあります。それは、岡常の鋏は決して「メンテナンスフリーの便利な道具」ではないということです。
放っておけば錆びますし、切れ味が落ちれば研ぎも必要です。フェルコのように部品交換だけで新品同様に戻るわけでもありません。しかし、手をかければかけるほど、それに応えて素晴らしい切れ味を提供し続けてくれます。使い込むほどに手に馴染み、ハンドルの紅白の色が少し褪せてきた頃には、それはもう単なる工業製品ではなく、あなただけの「相棒」になっているはずです。
自分の手で研ぎ上げ、油を塗って手入れした鋏で、朝の庭木を「パチン、パチン」とリズム良く手入れする時間。その指先に伝わる確かな感触こそが、ガーデニングの喜びを何倍にも深くしてくれると私は信じています。
まだ岡常を使ったことがない方は、ぜひ一度その切れ味を体験してみてください。そして既に愛用している方は、これからも正しいメンテナンスで、末長くその切れ味を楽しんでくださいね。
※記事内で紹介した製品の仕様や推奨するメンテナンス方法は、執筆時点での私の経験と調査に基づくものです。
以上、和盆日和の「S」でした。